美容室を経営していく中で、1人では手が回らなくなる瞬間がやってきます。
「そろそろ人を雇いたい」と思っても、実は雇用には多くの“落とし穴”があることをご存知でしょうか?
この記事では、現役でサロン経営をしている筆者が「人を雇う前に絶対に知っておくべきマネジメントの基本」を、リアルな失敗談も交えながら解説していきます。
人を雇った後に後悔しないよう、この記事で正しい準備と考え方を身につけていきましょう。
雇用は「人件費」ではなく「投資」だと考える

投資思考のポイント
- 人件費=固定費ではなく、将来キャッシュフローを生む資産づくり。
- 採用〜育成〜定着にかかる総コスト(採用広告、面接時間、初期教育、制服・道具、給与)を回収期間で見る。
回収の超・実務式(目安)
- 1人あたり月間粗利=(技術売上+店販売上×店販粗利率)−(歩合・時給・材料原価)
- 採用投資総額=採用費+教育時間×時給換算+初期備品
- 投資回収月数=採用投資総額 ÷(月間粗利−既存体制時の粗利)
例)採用投資40万円、増加粗利が月8万円 ⇒ 約5か月で回収。
※「教育で戦力化するまでの空白期間」も織り込むこと。
最低ラインの可視化
- 「1人あたり必要売上」=(総人件費+家賃・水道光熱費+広告費+その他固定費+目標利益)÷ 稼働人数
- 週次の稼働率(予約枠充足率)×客単価で、売上の手前段階を管理。
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スタッフとの関係は「上下」よりも「信頼」
信頼を積み上げる4つの行動
- 期待値の明文化:役割・KPI・行動規範をA4一枚に。初日に読み合わせ。
- 1on1(隔週20分):悩み・学び・次の一歩をSBI(Situation-Behavior-Impact)法で対話。
- 称賛の頻度>指摘の頻度:1:1以上を目標(称賛:指摘)。
- 情報の透明性:売上・原価・口コミを可視化し「一緒に改善」するチーム感を醸成。
会話テンプレ(SBI+次アクション)
- S:昨日17時の新規カウンセリングで、
- B:お悩みの深掘り質問が2つ少なかった。
- I:仕上がり満足は高いのに、次回予約につながりにくかった。
- Next:次回は質問リストを手元に置こう。私が5分ロープレ付き合うね。
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トラブルのほとんどは「認識のズレ」から起こる

ズレやすい論点リスト
- SNS投稿は勤務時間内か/成果指標は?(例:月◯本、指名◯件流入)
- 開店前後の準備・掃除は勤務時間に含むか、手当の有無は?
- 研修・ミーティング・撮影会の賃金扱いは?
- 遅刻・早退・当日欠勤の連絡基準とペナルティは?
- 物販の声掛けはノルマか、推奨か?指標と還元は?
「就業ルール・ミニハンドブック」サンプル目次(A4×4枚想定)
1)勤務・休憩・残業の取り扱い/2)報酬・歩合の計算式/3)SNS・撮影・著作権・肖像権/4)金銭・レジ・在庫管理/5)カウンセリング標準/6)遅刻・欠勤・有休/7)ハラスメント防止/8)事故・クレーム時フロー
署名のひと工夫
配布だけでなく、「理解テスト(10問)」→合格→署名まで。のちの揉め事を9割減らせます。
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制度づくりは「入社前」が勝負
給与・評価・休暇は“先出し宣言”
- 給与例(アイラッシュ): 基本給20万円+技術歩合(技術売上の◯%)+指名手当(◯円/件)+店販10%+達成賞(チーム指標)。
- 評価の柱(重み付け例): 売上40%/再来率20%/店販10%/技術品質15%/接客・協働15%。
- 休暇ルール: 有休の申請期限、土日祝の取得上限、繁忙期の運用、半休の可否。
オファーレター(内定通知)チェック
- 雇用形態・試用期間・給与テーブル・残業の扱い
- 歩合の計算基準(税抜/税込・キャンセル・割引時)
- 目標・昇給の条件
- 研修の賃金扱い・費用負担
- 競業・情報管理・SNSポリシー(法的妥当性は専門家確認)
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「育てる」意識がある人だけが人を雇っていい
30-60-90日オンボーディング例
- 0〜30日:接客基準/電話・会計/シャンプー・ケア徹底。モデル10名。
- 31〜60日:主要メニュー(例:パーマ・ラッシュリフト・ブロー)でモデル20名、品質チェック2回/週。
- 61〜90日:デビュー判定(タイム・やり直し率・お客様満足)。部分的に指名解放。
技術チェック表(抜粋)
- タイム基準:カウンセ5分/施術◯分/仕上げ◯分
- 品質:カール均一/持続◯週/肌当たり◎/衛生◎
- 接客:初動挨拶/共感反復/提案3案/次回予約提案
面談テンプレ(毎月20分)
- よかったこと3つ→理由
- うまくいかなかったこと1つ→学び
- 来月のKPI(売上・再来率・口コミ件数)
- 上長がサポートすること(約束)
注意:「叱る」は最後の手段。まずは環境・やり方・期待値を整えるのが管理者の仕事。
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辞められたときの準備もしておく
“辞めても回る”仕組み
- 引継テンプレ:担当顧客一覧/施術注意点/薬剤・デザイン履歴/NG事項/次回提案メモ。
- 顧客データの所在:店舗管理(カルテ・予約・写真)。個人スマホ依存を禁止。
- SNSアカウント方針:個人/店舗の棲み分け、素材の権利、退職後の利用ルール。
- 返却物・最終清算:鍵・制服・ツール・在庫・立替金。
- 退職後コミュニケーション:公式声明・口コミ対応・紹介クーポン(担当変更のご案内)。
退職フロー(7ステップ)
申し出→面談→日程確定→引継→広報→最終日運用→アフターフォロー。
※感情的な引き止めより、丁寧な門出がブランドを守ります。
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マネジメントは「自分自身の成長」でもある

オーナーの時間設計
- マネージャー時間(会議・1on1・採用・評価):週8〜12h
- メーカー時間(深い作業・設計・勉強):週4〜6h
- 現場時間(施術):目標に応じて配分調整
自己点検10問(月1回)
1)約束を守れているか/2)否定より称賛が多いか/3)数字を一緒に見ているか/4)責任転嫁をしていないか/5)成長の仕組みを回しているか/6)採用基準はぶれていないか/7)休めているか/8)任せられているか/9)面談を後回しにしていないか/10)理念を語れているか。
学習テーマの例
- カウンセリング心理・コーチング
- サービス設計(CX)
- リーダーシップ(非暴力コミュニケーション/フィードバック)
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【まとめ】人を雇うと経営のステージが一気に上がる
人を雇うことで、売上だけでなく、サロンとしての世界観・ブランド・信頼性が大きく広がります。
もちろん責任や課題も増えますが、それ以上に得られる喜びや可能性も大きいもの。
最後に、“実行用のミニチェックリスト”を置いておきます。
採用前チェック(◯×で確認)
- 1人あたり必要売上と回収月数を算出した
- ルールブックと評価・給与テーブルを作った
- 30-60-90日育成プランを用意した
- 1on1と面談テンプレを準備した
- 退職時フローとデータ管理を決めた
採用直後チェック
- 初日のオリエン資料を読み合わせ、理解テストを実施
- 週次で進捗レビュー、隔週1on1を開始
- KPIダッシュボード(売上・再来率・口コミ・店販)を共有
常時運用チェック
- 指標の見える化/称賛文化/学びの仕組み
- 離職に備えた引継テンプレとSNS運用方針の徹底
これらを地道に整えることで、定着率が上がり、売上が安定し、あなた自身の時間と心にも余白が生まれます。
「人を雇う前」にこそ、何度でも立ち返って準備を進め、長く愛されるサロン経営を実現していきましょう。
※注:社会保険・労務・契約条項は地域や状況で要件が異なります。最終運用前に社労士・弁護士・税理士など専門家へ確認してください。

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